事業引継ぎ支援事例 No.02

村の生活基盤、
地区唯一の商店を引き継ぐ。

「ストアー菊竹」は、地区唯一の食料品店として高齢化が進む地域の生活を支えてきた。
しかし、店主である菊竹氏とともに店を切り盛りしてきた奥様が、平成28年の夏頃から体調を崩したことをきっかけに、平成29年12月末で店を閉めることを決意。ただ、地区唯一の商店ということもあり、菊竹氏も地域のために店を残したいという強い想いを抱いていた。

地域のお客様のために、食料品店を残したい。

緑と水に恵まれた、熊本県球磨郡球磨村一勝地地区。球磨川の雄大な流れを眼前に望むロケーションに、地区唯一の食料品店「ストアー菊竹」はある。店主である菊竹氏が仕入れと配達を担当、奥様は店で接客に立ち、夫婦二人三脚で切り盛りをしていた。店舗に来ることのできないお客様への配達は、高齢化が進む地域の中で喜ばれ、地域になくてはならない存在となっていた。

ところが、平成28年の夏頃、奥様が腰を痛め店舗に立つことが困難な状況になってしまう。夫婦二人で力を合わせて歩んできただけに、たちまち店の経営が立ち行かなくなってしまった。菊竹氏は、「いつか店を続けられなくなる日が来る」と心構えをしていたこともあり、店を閉めること自体に躊躇はなかったが、地域のお客様が気がかりだった。「一勝地地区には、車を運転できない高齢者の方もたくさんいる。この店がなくなれば、普段の暮らしがままならなくなってしまうことが、何よりも気がかりだった」と当時の心境を語る菊竹氏。お店を支えてくれたお客様への感謝の気持ちを胸に、自力で後継者探しをはじめたが、店を託せる人との出会いはなかった。

菊竹氏は、店の前に後継者募集の張り紙をするなど後継者探しを続ける傍ら、球磨村商工会の経営指導員である西田氏にも、後継者がなかなか見つからないことを相談した。西田氏は「地域とともにある店だけに、やめられないのが人情というもの。菊竹さんもやめ時を逸してしまい、店を続けてきたように見えた」と振り返る。

地区唯一の食料品店「ストアー菊竹」を譲り渡した、菊竹氏。

迫る廃業期限。
村役場を巻き込む。

後継者探しが続く中、西田氏は支援機関の会議で事業引継ぎ支援センターの存在を知る。早速、菊竹氏のもとに足を運び熊本県にある事業引継ぎ支援センターを紹介。平成29年9月に菊竹氏と熊本県事業引継ぎ支援センターの牧氏、西田氏の三者で相談の場が持たれた。

相談にあたった牧氏は、菊竹氏の地域に対する感謝の気持ちや、後継者が現れなくても平成29年12月いっぱいで店を閉めると決めていることを確認。「菊竹さんは、地域の皆さんに対して大変強い想いを持っていた。だからこそ、この店は絶対に残さなくてはいけないと感じた。ただ、時間的な余裕がないことが懸念だった」と牧氏。契約までの調整期間を考えると、後継者探しには2か月程度の猶予しか残されていなかった。

「通常の方法では時間的に難しい。ただ、菊竹氏に店の名前と12月にやめるという情報をオープンにしていいと言っていただけたことが大きかった」。牧氏の脳裏には、残された時間の中で効果的に後継者候補を集める、ある方法が浮かんでいた。

それは、村役場の協力のもと、地域住民の目に触れるような方法で広報するというアプローチだ。牧氏と西田氏は相談が終わると、その足で球磨村役場の企画振興課に駆け込み事情を説明するとともに、広報への協力を依頼した。

店内には食料品や生活用品など、暮らしに必要な商品が並ぶ。

一般的に、一商店の事業の引継ぎ問題に村役場の広報を活用することは困難。しかし、地区で唯一の店が存続するか否かは、地域住民の生活を大きく左右する問題だ。数日後、企画振興課から商工会の会報誌という体裁であれば回覧板のルートに乗せてよいという回答が得られた。「村の生活基盤を残したいという一心で、村役場として公共性を保ちながら、どうしたら協力できるかを考えた」と企画振興課の髙永課長は語る。ストアー菊竹の存続を村も願っていた。

手を挙げたのは、一期上の先輩。

村役場の回答を得て、商工会の西田氏が早速会報誌づくりに着手。後継者募集の情報に加え、「商工会としても、“地域の皆様方の買い物が不便にならないように”と、願っています」との一文を添えた。

ストアー菊竹の後継者募集の告知が掲載された会報誌が地域に回覧された後、10月中旬には2名が後継者に名乗りを上げた。「候補者が現れてほっとした」と菊竹氏は当時の心境を振り返る。そして、候補者の中から隣の地区で移動販売を行う木屋氏を後継者に選んだ。

「木屋さんは、球磨村商工会の一期上の先輩。移動販売を行っており、商売をよく知っている。息子さんも将来的に商売に携わる意欲を持っており、長く店が続くと感じた」と菊竹氏は語る。ストアー菊竹を中心に商工会、村役場、事業引継ぎ支援センターという支援の連携が実を結んだのだ。後継者に手を挙げた木屋氏は「私から見れば今回の引継ぎは事業拡大。移動販売が先細る中で、店舗を構えたいと長年思ってきた」と語る。

その後、譲渡金額の交渉などが行われ、当初5年間は木屋氏に土地と建物を賃貸し、その後事業が軌道に乗ったところで譲渡することに合意。書類作成などの契約の実務的なフォローや金融機関への融資申し込みのサポートを、事業引継ぎ支援センターと商工会の連携で行った。

「木屋商店」で接客をする、事業を譲り受けた木屋氏の奥様。
事業を譲り受けた木屋氏。

地区唯一の商店が存続。村の生活が守られる。

事業引継ぎのタイムリミットと菊竹氏が設定した12月末を目前に、晴れて菊竹氏と木屋氏の事業引継ぎが成立。事業を譲り渡した菊竹氏は「毎日休むことなく働いてきた。とにかく無事に店が存続できてほっとした」と語った。一方、事業を譲り受けた木屋氏は「移動販売に店舗が加わったので、今は毎日がいっぱいいっぱいの状況。地域の皆さんのお役に立ち、長く店を続けていきたい」と意欲を語る。

「ストアー菊竹」から「木屋商店」へと看板を架け替えた地区唯一の店。店に立つ木屋氏の奥様の発案で店内に置かれたベンチには、地域の住民が集まり買い物後におしゃべりを楽しむ姿も日常的になりつつある。お客様からも「店が続いてほっとした。私たちも木屋商店を盛り上げていくからね」と感謝と応援の言葉をもらっているそうだ。事業を譲り渡した菊竹氏も、馴染みのお客様への配達などを手伝い、村の生活基盤は今日も守られている。

地区唯一の商店への想いの輪で、事業が引き継がれる。(左から、熊本県事業引継ぎ支援センターの牧氏、球磨村商工会の西田氏、事業を譲り受けた木屋氏の奥様、木屋氏、事業を譲り渡した菊竹氏、球磨村役場の髙永課長)

事業引継ぎの流れ