CASE .05
事業引継ぎ支援事例 No.05
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新たな手法で、
雇用を引き継ぐ。
社長の急逝で、経営の危機に陥ってしまった新潟県の小さな内線電話工事会社。残された妻の平原知子氏は「雇用だけは、なんとしても守りたい」という切実な想いで、事業引継ぎに向けた一歩を踏み出す。
社長の急逝で、売上げが三分の一に。
社長とその妻、従業員1名という新潟県の小さな内線電話工事会社、(有)大基通信システム。社長が、会社の顔として営業を一手に担当し順風満帆とは行かないものの業績は安定していた。しかし、何の前触れもなく社長が急逝してしまう。残された妻の平原知子氏は、これからどうしようと途方に暮れたものの、お客様に迷惑をかけるわけにはいかないと、従業員とふたりで事業を継続することを決意。
しかし、営業窓口であった前社長の亡き後、顧客離れが進み、売上げは三分の一まで急落、わずか二ヶ月で経営が立ち行かなくなってしまう。付き合いのある税理士からは、会社を清算するべきだと助言を受けたが、平原氏にはどうしても会社を続けたい理由があった。
それは、従業員の雇用を維持したいという強い想いだ。そもそも現在雇用している従業員は、3年ほど前に無理を言って入社してもらった経緯があり、彼にも「この会社で自分の仕事は終わらせたい」という想いがあったのだ。そこで平原氏は、知り合いの同業者を訪ね、何とか社員一名とお客さんを引き受けてくれないかと頭を下げて回った。
しかし、業界的に小さい会社が多いこともあり、ましてや赤字の会社を引き受けるリスクは大きすぎた。引継ぎ手が現れることなく、万策尽きたかと想われた頃、商工会から事業引継ぎ支援センターのパンフレットが郵送されてきた。藁にもすがる想いで、センターに電話し、相談に訪れた。
問題意識を持った地元中堅企業の目に留まる。
「企業規模が小さく、経営も厳しいので引継ぎ手が見つかるかはやって見なければわからなかった」と相談当時の印象をそう振り返るのは事業引継ぎ支援センターの畠山氏だ。畠山氏は、ビジネスモデルを知らなくては、どう事業引継ぎを進めるべきかも掴めないと感じ、早急に業界の調査を開始。事業引継ぎ支援センターのつながりから、地域における同業界の中堅企業である北陸電々の河内社長のもとを尋ねた。
河内社長から業界動向や業界が抱える課題について広く話を聞き、業界の理解を深めた。その話の中で、河内社長が業界の先行きについて深い課題意識を持っていたことから、大基通信システムの話を持ち掛けた。
しかし、そこで通常のM&Aを行なわなかったというのが、このケースのユニークなポイントだ。
河内社長(左)のシルバー人材センターという構想の実現に向け、平原氏(中央)も新たな一歩を踏み出している。
高齢化時代を迎える業界に、新たな仕組みで対応。
そもそも河内社長が感じていた、内線電話工事業界の課題は大きくふたつ。ひとつは、作業者自体の高齢化が進んでいるということ。そしてもうひとつは、人手不足。このような業界の現状に反し、社内でのネット環境の整備も内線電話の整備会社に求められるようになり、業者側に求められる知識や作業量は急激に増えている。人がいないのに業務は肥大化し、人手不足が深刻化しているのだ。
「どの会社にも電話はついていて、通じなくなるとまずい。だからこそ、会社はお客さんを残して事業を辞めるわけにはいかない。その業界背景を含めて、M&Aに興味を持った」と語る河内社長は、今後このようなケースが増えていくことをにらみ、その解決策につながる構想を温めていた。
それは、シルバー人材センターと言う構想。具体的には、通常のM&Aではなく、企業組合を結成し北陸電々がそのスポンサーになるというスキームでの事業引継ぎだった。将来的には、後継者のいない企業に組合に加入してもらい、人手と仕事を効率よく回していくことを目指している。
事業引継ぎ支援センターの畠山氏はこの構想に対し「新潟県は燕三条の金属加工会社など、小さな企業が地場産業を支えている。しかし、後継者不足から廃業するケースが増えており、仕事が溢れてしまっている状況がある。企業組合は、これを解決できる画期的な方法かもしれない」と期待感をにじませる。個々で請けた仕事もするし、組合で請けることもできる。業界や地域が抱く課題の解決につながるアイディアが、この事業引継ぎにはあったのだ。
平原氏が強く願った、従業員の雇用も守られた。
相談から成約まで
わずか半年での事業引継ぎ。
「引継ぎ手は現れないと半ば諦めていただけに本当にうれしかった」
窮地を脱した平原氏は、事業引継ぎを終えた際の感想をこう語った。というのも、結果として相談からわずか半年というスピードで、企業組合を結成し事業引継ぎを完了させたのだ。
現在平原さんは、従業員とともに大基通信システム時代のお客様との付き合いや、北陸電々から業務委託された仕事に取り組んでいる。
「今後は、河内社長が考えているシルバー人材センターを、いかに具体化し、軌道に乗せるかが目標になっていくと思う。手探りな部分もあるが、前を向いて頑張りたい」と意欲を語った。
今回のスキームの絵を描いた河内社長は「実際に企業組合が発足して4ヶ月。これから、2社目、3社目となる企業を探していきたい。 ゆくゆくは自分の会社も組合の一員としてやっていくことも考えている」と心のうちを語った。
高齢化が進む中で、避けては通れない人材不足の波。企業組合と言うアイディアが、業界を超え、地域社会の課題さえも解決する事業承継スキームの主流となる日も遠くないかもしれない。