〈事例6〉佐藤米穀店|親族内承継の事例紹介
祖母の店を引き継いだ孫が経営革新
新設備を導入し、農家の未来を築く
孫が後を継ぐと分かっていても、なかなか事業承継に進めなかった前経営者。事業承継を決意した孫は、補助金を申請し、店の経営革新に取り組んだ。
事業承継が難しかった理由
事業承継の考えはあるがなかなか踏み出せない
一般的に事業承継にかかる期間は、5年~10年といわれている。経営者が高齢になるにつれ、病気やケガに見舞われる可能性が高くなり、経営者の迅速な意思決定がなされないまま事業が進行することも考えられる。もし、70歳の引退を目標にしているのならば、60歳で事業承継の準備を始めるのが望ましい。悩む前にまず早めに相談したい。
孫に店を継がせたい
青森県上北郡の東南部、太平洋側に位置する六戸町。佐藤米穀店がここで創業したのは、100年以上前の明治時代初頭のこと。当時は馬車で農家から穀物を運ぶ運送会社だったが、現在は収穫から出荷までワンストップで請け負う精米業に転身した。
3代目である佐藤トモさんは、20歳で嫁いで以来、約70年近く店を支えてきた。2002年には、長引く闘病生活の末にご主人を亡くし、佐藤さんと長女の息子である孫の柳原尚徳さんがお店を切り盛りすることになった。孫が働き始めた当時を振り返り佐藤さんは、「一人で働いていた時は、若い衆が大勢いたが、孫が手伝うようになり(仕事のやり方が)随分変わった」と語った。
当時、22歳だった柳原さんは、最初アルバイト感覚で働き始めたが、祖父が倒れたのをきっかけに、本格的に店を手伝うようになった。「当時は今のような機械がなかったので人が大勢いた。だが、機械を導入して人手を減らさないと、この先は厳しいと感じていた」(柳原さん)
佐藤さんは、柳原さんに新しい精米機やフォークリフトを購入する"自由"を与えた。それが上手くいき、業績は順調に推移した。佐藤さんはそんな孫の姿を見て、いずれは店を継がせたいと願う一方、「若いから自由な時間を与えて、あまり束縛しないほうがいい」と考えていた。そのことが結果的に事業承継を遅らせることになってしまった。
事業承継は今しかない
柳原さんは店の実質的な運営を任されていたものの、祖母は90歳を目前にしていたため、代表者交代も必要だと感じていた。そんな折、近くの金融機関で事業承継の相談会が開催されるのを知り、柳原さんは足を運んだ。「事業承継の具体的な進め方や事業承継・引継ぎ補助金の存在を知った。祖母は高齢なので、事業承継を今すぐにでも始めないといけないと思った」と、その時の心境を語った。それがきっかけとなり、柳原さんは六戸町商工会の主任経営指導員・新井山啓尉さんに相談を持ちかけた。新井山さんは「柳原さんとは商工会青年部で親交があり、親しい間柄。地元で愛されている店なので、何とかしたい気持ちになった」と語った。
六戸町商工会からの依頼を受け、青森県事業承継・引継ぎ支援センター(以下、センター)からエリアコーディネーター・上野真人さんと、21あおもり産業総合支援センターのコーディネーター田村武智さんが参画。商工会と連携し、事業承継と補助金申請の書類作成を支援した。補助金の使途について柳原さんは、「一番の目的は、やはりお客さん(農家)の収入を増やすこと。光センサーによる選別機を使えば、農家の収入アップが期待できるし、減農薬にも繋がる。でも、機械が高額でこれまで手を出せなかった」と話した。近年、カメムシの被害によって変色した着色粒が混入するケースが増えており、米の等級を下げる原因になっていた。だが、最新の選別機を使えば、変色した米粒を確実に除去できる。導入コストは大きいが、農家から預かった大切な米を今まで以上に高く売ることができる、と柳原さんは考えていた。
経営革新で未来に繋ぐ
動き始めてからは早く事業承継は無事完了。2021年11月には、国の事業承継・引継ぎ補助金に採択された。こうして柳原さんの想いは現実のものとなった。補助金を活用して選別機を導入し、米の等級を上げることで、農家に利益を還元できるようになった。
上野さんは、「事業承継と補助金申請の一連のプロセスを効果的に支援することができた。何より補助金に採択されたのは、柳原さんの事業に対する考え方が大きい。ビジョンを明確にし、それを目標に真摯にチャレンジする姿勢を示したことが、採択を決定づけたのでは」と語った。
祖母が長年守ってきた店を引き継ぐことは、決して簡単なことではない。だが、柳原さんは農家の利益を一番に考え、精米市場を活性化させるための方策を日々考えている。佐藤米穀店と農家との絆は、柳原さんが継いだ後でも揺らぐことはないだろう。柳原さんは革新的な発想を取り入れ、佐藤米穀店は今後も地域農家の発展に貢献していく。
青森県事業承継・引継ぎ支援センターによる事業承継例
佐藤米穀店
- 青森県上北郡六戸町
- 創業:明治時代初頭
- 従業員:2人
- 事業内容:米販売店
事業承継フロー
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- 1
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前経営者の高齢化に伴い
事業承継の必要性を再認識
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- 2
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地元の金融機関が開催する
事業承継の相談会に向かう
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- 3
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後継者が六戸町商工会に
事業承継と補助金申請を相談
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- 4
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六戸町商工会が青森県事業承継・
引継ぎ支援センターに支援を依頼
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- 5
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事業承継、事業承継・引継ぎ補助金
申請のための書類作成を支援
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- 6
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開業届を提出し、事業承継は完了、
補助金申請が採択された