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「事業承継・引継ぎ」 事例紹介

〈事例12〉池島酒造株式会社|第三者承継の事例紹介

酒造り愛した似た者同士
地元貢献の思いで意気投合

1907(明治40)年創業の池嶋酒造。酒蔵の井戸水と地元酒米で造る「池錦」ブランドの酒は”那須の美酒”として地域の人々に愛されてきた。
酒造りを極めた4代目社長から事業を継ぐのは、酒造りが夢だった小売酒店の2代目社長だ。
酒造りと郷土を愛する似た者同士。すぐに意気投合した。

手造りの誇り

池島酒造創業者の初代池嶋仙之丞(せんのじょう)が残した家訓は「主人自ら蔵に入るべし」。仙之丞を襲名した歴代後継者は、酒造りの最高責任者、杜氏の下で蔵人と呼ばれる職人と一緒に酒蔵に入って作業し、機械に頼らない手造りの酒を誇りとしてきた。
4代目仙之丞の代表取締役・池嶋英哲さんは大学時代、レスリングの選手。体力には自信があった。蔵人同様に上半身裸になって、蒸し米をかき混ぜて酒母(蒸し米に麹を加えたもの)を仕込む高温下の作業や、寒さの中のコメとぎなど、寒暖差の激しい作業に弱音を吐くことなく、働いてきた。

蔵のタンクの前でほほ笑む池嶋英哲社長と妻の安紀子さん

蔵のタンクの前でほほ笑む池嶋英哲社長と妻の安紀子さん

気になる将来

50歳を境に、池嶋さんの強靱な体が悲鳴を上げる。酒蔵での作業中のめまいで、これまでに3回、救急車で運ばれた。妻の安紀子さんの不安は募るばかり。池嶋さんは酒蔵の将来が気になり始めた。
後継者探しに本腰を入れたのは、信頼する杜氏が病気で体調を崩した2016年。110年余り続いた酒造りはストップした。知人の酒蔵に製造を委託して「池錦」ブランドはなんとか維持したが、にぎやかだった酒蔵から蔵人の姿は消えた。

酒を製造していた頃の仕込み風景

池島酒造の代表ブランド「池錦」

池島酒造の代表ブランド「池錦」

日本酒造りには欠かせない麹の発酵を促すための製麹室

(写真上)酒を製造していた頃の仕込み風景
(写真下)日本酒造りには欠かせない麹の発酵を促すための製麹室

残った徒労

長男は公務員。頼めば継いでくれたかもしれないが、重労働を知る池嶋さんは頼まなかった。
自ら動き地元金融機関の仲介で第三者への事業譲渡をほぼ決めたが、諸事情から最終段階で破談に。酒蔵を明け渡すために引っ越し先まで決めていた池嶋さんには徒労だけが残った。

センターで再挑戦

この苦い経験を薬に、友人からのアドバイスも参考にして池嶋さんは、再挑戦を決意する。地元の大田原商工会議所を通じて、栃木県事業承継・引継ぎ支援センターに18年10月相談。事業承継交渉の豊富なノウハウを持つ専門スタッフと二人三脚で後継者を探した。
同センターは5件ほど候補を示したが、池嶋さんの琴線に触れる相手はいなかった。池嶋さんが求める後継者像は、酒造りへの熱意にあふれ、生まれ育った郷土をこよなく愛する人だ。”若き日の自分”を探し求めるような難しい後継者探しが続いた。
状況の進展がない中、鹿沼相互信用金庫から提供された貴重な情報が、一気に進む道を照らすことになる。

栃木県事業承継・引継ぎ支援センター

栃木県事業承継・引継ぎ支援センター

長年の夢

事業を引き継ぐ小林酒店の小林一三社長

事業を引き継ぐ小林酒店の小林一三社長

それは、栃木県鹿沼市で地酒などを販売する小林酒店の2代目社長、小林一三さんだ。小売りで満足せず、知り合いの酒蔵を“間借り”して「鹿沼娘」という酒も造っている。
ただ、酒類製造免許はなく、「製造者」を名乗れない。このため「流れに逆らって下流(小売り)から上流(製造)にさかのぼるのが長年の夢だった」と語る酒小売界のいわば革命児だ。「後継者はこの人しかいない」センターは迷いなく池嶋さんを紹介した。

地元愛に”共感”

”鹿沼娘”の呼称からも分かるように、小林さんの地元鹿沼への愛は人一倍強い。現在ゼロになってしまった酒蔵を鹿沼市内に復活させ、その酒蔵に宿泊施設やレストランなどを併設して鹿沼の発展を目指す大きな構想を抱いていた。
この構想を聞いた池嶋さんは、地元大田原市での事業継続を願った当初の考えを改めた。小林さんを「やる気があり、地元を大切にする人」と信じ、事業譲渡を決断した。
小林さんは、一貫して手造りにこだわってきた池嶋さんの酒造りを尊敬し、池錦ブランドの存続を約束した。「池嶋さんが手塩にかけた池錦ブランドをしっかり受け継ぐ」と決意している。
21年3月、池嶋さんと小林さんは株式譲渡契約書を締結。酒造りと地元を愛する2人の思いが共鳴し、事業譲渡が実現した。

承継への期待を語る池嶋社長

承継への期待を語る池嶋社長

小林社長は酒造りの想いも強く、現在も自社オリジナルの清酒「鹿沼娘」を委託製造し、販売している

小林社長は酒造りの想いも強く、現在も自社オリジナルの清酒「鹿沼娘」を委託製造し、販売している

池島酒造株式会社

池島酒造株式会社

  • 所在地:栃木県大田原市
  • 創業:1907(明治40)年
  • 従業員:2人
  • 事業内容:酒蔵

事業承継フロー

    • 1
    • 杜氏が体調を崩し、将来を懸念
    • 2
    • 一度は第三者への譲渡を決意するも、
      最終段階で破談に
    • 3
    • 大田原商工会議所を通じて、栃木県
      事業承継・引継ぎ支援センターに相談
    • 4
    • 信用金庫の仲介で自社ブランドも
      持つ鹿沼市の小林酒店社長と出会う
    • 5
    • 酒造りへの情熱と地元愛に共感し、
      株式譲渡契約書を締結

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事業承継・再生支援部

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