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「事業承継・引継ぎ」 事例紹介

〈事例4〉有限会社池上旅館|親族内承継の事例紹介

借金があったら、引き継げない!?
温泉宿の女将になった娘の覚悟

改装費の負担が増えたことで、事業承継が進まなくなっていた経営者一家。 だが、その悩みは娘が受け取ったある手紙がきっかけとなって大きく変わった。

事業承継が難しかった理由
負債を抱えていると事業承継できない?

富山県事業承継・引継ぎ支援センターの様子

富山県事業承継・引継ぎ支援センターの様子

旧経営者が負債を抱えている場合、個人保証を理由に事業承継を拒否するケースは少なくない。 そこで経済産業省は、事業承継時に後継者の経営者保証を可能な限り解除していくため、一定の条件を満たす企業に対して原則無保証化、 経営者保証を不要とする新たな信用保証制度の創設、経営者保証ガイドラインの特則の施行、 経営者保証解除に向けた専門家による支援など金融機関と中小企業の双方の取り組みを促す総合的な対策を実施している。

湯治宿から高級路線へ

池上旅館 女将 湯上ちさとさん

池上旅館 女将 湯上ちさとさん

古くから子宝の湯として知られ、湯治場として栄えていた富山県魚津市北山鉱泉。 この地に1867年(慶応3年)に創業、これまで150年以上の歴史を持つ老舗旅館が、池上旅館(現在の「お宿 いけがみ」)である。 同旅館の4代目主人である池上嘉昭さんが家業を継いだ当初は、毎日多くの湯治客が訪れ、夫人とともに多忙な日々を過ごしていた。

その一方、嘉昭さんは旅館運営に意欲的で、常に新たな経営戦略を描いてきた。 それまで愛されていた湯治宿と決別し、現在の客数を限定した高級路線を打ち出したのも、嘉昭さんのアイデアによるものである。 北陸新幹線の開通により他県からの集客を視野に入れ、2014年に全館をリニューアル。 2016年にはミシュランガイド富山石川版で、特に魅力的と評され、一躍注目の宿となった。 当時家業の手伝いをしていた長女のちさとさんは、「リニューアルは父がどうしてもやりたかったこと」と話す一方、 「経営悪化が続く中で多額の負債を抱えており、今後返済できるかどうか不安になった」という。

進まない事業承継

三姉妹の誰かが継いでくれれば、という思いはあったが、嘉昭さんは後継者についてそれ以上言及しなかった。 そこでちさとさんは長女として家業を引き継ぐ覚悟を決めた。夫・湯上真一郎さんの助けを借り、女将として新たなスタートを切った。 湯上さんは16年間勤務した製造業を退職し、リニューアルに合わせて同旅館に入った。 接客は全くの素人なため、嘉昭さんから厳しく指導を受けることがあったが、 素人だからこそ客と同じ目線に立てることもあり、時には嘉昭さんに進言することもあった。 「当時、全員無休で働いていたのでかなり疲弊していた」と感じた湯上さんは、 全館定休日を提案。 また、男女別だった浴室を貸し切り形式に変更し、宿泊客の満足度向上に努めた。 できることから改善し、旅館業の知識を次第に身につけていった湯上さん。 入社6年が経過し、若旦那として女将とともに旅館の顔になった。

だが、それでも嘉昭さんから後継者の話が出ることはなかった。 借金を抱え、役員全員が保証人になっていることもあり、嘉昭さんは事業承継を前に進めることが難しかったのだろう。 娘婿である湯上さんから後継者の相談を切り出すと差し出がましい発言にもなりかねないため、しばらくは池上家の意向を伺った。

(写真上)リニューアルした旅館

リニューアルした旅館(部屋)

池上旅館 専務(承継者候補)湯上真一郎さん

池上旅館 後継者の湯上真一郎さん

(写真下)リニューアルした旅館

リニューアルした旅館(ロビー)

解決に向けた一筋の光

そんな折、湯上さんとちさとさんの元に、 富山県事業承継・引継ぎ支援センターから事業承継を支援する内容のダイレクトメールが届いた。 二人はすでに事業承継の問題を抱えていたこともあり、すぐに同センターに相談。 悩みを打ち明けるとともに、事業承継に向けた具体的な対策の支援を受けることになった。

本件を担当した経営者保証コーディネーター・深井眞人さんは、 借入金と保証人の問題により事業承継が遅れているのが明らかだと判断し、国の経営者保証に関する考え方を説明。 同時に事業承継計画書の作成を支援する専門家派遣と経営者保証業務を併せて支援することにした。

きっかけとなったパンフレット

きっかけとなったパンフレット

経営者保証コーディネーター・深井眞人さん

経営者保証コーディネーター・深井眞人さん

未来が明るくなった

笑顔になった湯上夫婦

返済中でも経営者保証解除に向けた交渉ができることは、ちさとさんにとってまさに寝耳に水だった。 「そうした道筋が見えたことが本当に嬉しかったです。 すでに二人の妹は旅館から離れている身なので、素直に保証解除できればと思いました」

一方、湯上さんは2022年6月に有限会社 池上旅館の代表に就任した。 今後は、事業承継特別保証制度(保証人の付いた借入金を保証人不要の借入金に借り換えする制度)を活用した保証人の解除を目指している。 事業承継の悩みを打ち明けたことで問題解決に向かい、会社の未来が明るくなったというちさとさん。 「毎日笑っていられる職場に変わり、とても幸せを感じています」と現在の自分をそう述べた。

富山県事業承継・引継ぎ支援センターによる事業承継例

富山県事業承継・引継ぎ支援センターによる事業承継例

有限会社池上旅館

有限会社池上旅館

  • 富山県魚津市
  • 創業:1867(慶応3)年
  • 従業員:3人
  • 事業内容:旅館業
  • HP:https://ikegamiryokan.jp

事業承継フロー

    • 1
    • 事業承継・引継ぎ支援センターから届いた
      パンフレットを見て、センターに相談
    • 2
    • 経営者保証コーディネーターと
      面談
    • 3
    • 事業承継時における具体的な課題を抽出
      経営者保証の解決が急務だと判明
    • 4
    • 専門家の指導の下、
      事業承継計画書を作成
    • 5
    • 経営者保証解除に向けた
      金融機関への調整
    • 6
    • 代表権の移転が完了
      保証人の見直し交渉を行う

独立行政法人 中小企業基盤整備機構

事業承継・再生支援部

TEL. 03-5470-1595

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