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「事業承継・引継ぎ」 事例紹介

〈事例14〉株式会社朝日山洋服店|従業員承継の事例紹介

同業のすご腕営業経験者を社長に
家業存続願う老舗学生服店

創業は日露戦争の始まった1904年。古い資料によると、
16歳で生まれ故郷の鳥取県を出て大阪市内の洋服店に勤めた初代が独立して創業したという。
学生服の指定商となり礎を築く。歴史ある朝日山洋服店の未来は、
初めて身内以外で経営者となる同業の”すご腕営業経験者”の手に委ねられた。

教師辞め3代目に

当時の佐々木慶治さん(中央)

当時の佐々木慶治さん(中央)

朝日山洋服店は2代目の佐々木慶治さんが復員後の1947年に再開した。当時、洋服といえば、オーダーメードが普通。既製服は普及していなかった。
店は、紳士服や婦人服の注文、寸法取り、裁断、仮縫い、縫製まで手間のかかる作業に従事する数多くの職人が活躍して「注文服全盛時代」を生き抜く。
高度経済成長の波に乗り、事業拡大にも挑んだ慶治さんはがんのため55歳の若さで旅立つ。この時、長男の佐々木義之さんは26歳。高校教師として若者の教育に燃えていた。しかし父と一緒に店を盛り立ててきた母を一人にはできない。義之さんは教師を辞め、3代目を継いだ。

学生服を柱に

注文を受けた学生服

注文を受けた学生服

時代の変化は激しい。しばらくして注文服の時代に陰りが見え始め、既製服が主流となる。注文服事業の先細りを見据えた義之さんは、大手メーカーから学生服を仕入れて販売する小売を事業の柱に据える。
そのころ出会ったのが、まだ20代前半で駆け出しの大手学生服メーカーの営業担当だった日高明伴さん。義之さんが数十年後に、店の将来を託す人物だ。

伝説の営業パーソン

伝説の営業担当とも言われてきた日高明伴さん

伝説の営業担当とも言われてきた日高明伴さん

佐々木さんと日高さんは、やがて取引上の付き合いを超え、親しくなる。
「古き良き日本最後の猛烈サラリーマンだった」と笑う日高さんは20歳で大手学生服メーカーに入社。総務に配属されたが、志願して23歳で念願の営業職に就く。それからがむしゃらに働いて頭角を現す。小売店はもちろん、受注拡大の鍵を握るこれだと思う学校関係者の懐に飛び込んで信頼関係を築き、大手メーカー4社がしのぎを削る大阪の学生服の”勢力地図”を次々と塗り替えた。ライバルメーカーから恐れられる伝説の営業担当者となり、取締役に上り詰める。
当時の日高さんの猛烈ぶりを佐々木さんは懐かしむ。「日高さんは、朝日山洋服店のまだ冷房のない倉庫で未整理の在庫品を、一日中汗だくになりながら黙々と学校ごとに並べ直してくれた」という。

社長含みの入社

歴史ある朝日山洋服店を守り抜いた佐々木義之さん

歴史ある朝日山洋服店を守り抜いた佐々木義之さん

義之さんは70歳前から事業承継を考えていた。親族の中に家業を継ぐ人はいない。頭の中に浮かぶ候補の中には常に日高さんがいた。共に経営に当たってきた弟とも相談し、大手メーカーを退く頃合いを見計らって日高さんに声を掛けた。社長含みの入社の要請に日高さんは当初渋ったものの、学生服業界を知り尽くしているだけに業務に自信はあった。2018年2月に役員でなく従業員として入社。21年1月、代表取締役社長に就任する。

外部からの後押し

入社から社長就任まではほぼ3年。日高さんがベテラン従業員との信頼関係を築く必要な期間でもあった。ただ、株式移転など、不案内な事業承継に必要な各種手続きの着手が後回しにもなった。
そのころ、店によく顔を出す地元の永和信用金庫の若手職員が雑談の中で、事業承継の専門家を擁する大阪府事業承継・引継ぎ支援センターを紹介してくれた。司法書士などの専門家と連携し、事業承継に必要な手続きを支援してくれる、という。
相談したところ、事業承継に際して決めるべきこと、用意すべき書類などが明確となり、これまでの停滞がうそのように事業承継の手続きが一気に進んだ。
センターのマッチングコーディネーターを務める鳳山淳貴司法書士は「役員変更などの登記の完了は、ある意味で事業承継の“出口”といえる。手続きをきちんと進めるには、専門家を活用してほしい」と語る。

永和信用金庫の井上雄貴さん

大阪府事業承継・引継ぎ支援センターの様子

大阪府事業承継・引継ぎ支援センターの様子

マッチングコーディネーターを務めた鳳山淳貴司法書士

(写真上)永和信用金庫の井上雄貴さん
(写真下)マッチングコーディネーターを務めた鳳山淳貴司法書士

家業存続に期待

朝日山洋服店はこれからも受け継がれる

朝日山洋服店はこれからも受け継がれる

義之さんは歴史ある家業を信頼する日高社長に「すべて任せた」。日高さんは「厳しい業界だが、何とか現状を維持して先につなげたい」と意気込んでいる。

株式会社朝日山洋服店

株式会社朝日山洋服店

  • 所在地:大阪府大阪市
  • 創業:1904(明治37)年
  • 従業員:4人
  • 事業内容:学生服販売

事業承継フロー

    • 1
    • 70歳が近づくころから
      事業承継について考えるが、
      親族に後継者候補がいなかった
    • 2
    • 取り引き先の営業担当だった
      現社長を勧誘する
    • 3
    • 現社長は従業員として入社し、
      客先や従業員との関係を築きながら
      将来の承継に備える
    • 4
    • 入社から約3年、
      代表取締役社長に就任する

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事業承継・再生支援部

TEL. 03-5470-1595

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