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「事業承継・引継ぎ」 事例紹介

〈事例17〉有限会社帰雲商事|第三者承継の事例紹介

限界を感じたらどうすべきか?
未来を切り開いた店主のSNS

後継者不在で廃業を決めた豆腐店。だが、SNSで廃店を表明すると、事業を譲受したいという地元企業が現れた。 一旦は諦めていた承継は、どう動いたのか?

事業承継が難しかった理由
後継者が見つからない場合は廃業するしかない!?

全国の事業承継・引継ぎ支援センターには、後継者不在の事業者(経営者)と経営意欲のある創業希望者を引き合わせ、 第三者による事業承継を支援する後継者人材バンクというマッチングの仕組みがある。 現在の事業を絶やすことなく次世代に引き継ぐことができるうえ、事業の存続を望む従業員や取引先、地域の期待に応えることができる。

岐阜県事業承継・引継ぎ支援センターの様子

岐阜県事業承継・引継ぎ支援センターの様子

>岐阜県事業承継・引継ぎ支援センターのパンフレット

岐阜県事業承継・引継ぎ支援センターのパンフレット

あの石豆富を再び

日本有数の豪雪地帯で、かつて日本の秘境とも呼ばれていた岐阜県白川村。 1995年には白川郷・五箇山の合掌造り集落が世界遺産に登録され、以降毎年多くの観光客がこの地を訪れるようになった。 そこから車で約10分のところに、深山豆富店がある。 この地域には、古くから紐で縛っても崩れないほど硬く仕上げた石豆富を食べる習慣があった。

同店店主の大野誠信さんは、幼い頃、盆や正月だけに食べた石豆富の味が忘れられず、豆腐作りの世界に飛び込んだ。 最初は失敗ばかりだったが、試行錯誤を繰り返していくうちに、ようやく納得できる石豆富を作れるようになった。 石豆富よりやや柔らかい花豆富、大豆を石臼ですりつぶしたすったても販売するようになり、やがて地元で愛される豆腐店になった。 大野さんの豆腐は好評だった。とはいえ、年を重ねるにつれ今後の事業継続に不安を感じ、後継者を探した。 だが、一向に見つからなかった。 「体力的に限界なうえ、突然休業したらお客様に多大な迷惑をかけてしまう。そこで廃店する決断をした」

限会社 帰雲商事 代表(旧経営者)大野誠信さん

深山豆富店 創業者の大野誠信さん

石豆富を作っている様子

石豆富を作っている様子

廃店をSNSで公表

深山豆富店を引き継いだ ヒダカラ共同代表の舩坂香菜子さん

2021年3月、大野さんは同月末日で廃店する旨をSNSで公表した。 その知らせを聞き、大野さんの元に急ぎ向かったのが、株式会社ヒダカラの舩坂香菜子さんだった。 舩坂さんが共同代表を務めるヒダカラは、飛騨地方の魅力ある食材を全国に届けることを目指し、2019年にご主人とともに起業。 深山豆富店とは、白川村ふるさと納税返礼品の取り扱いをきっかけに交流があった。 舩坂さんが駆けつけた際、大野さんはすでに廃店を決めていたが、舩坂さんは地元で愛されている豆腐店をどうしても失いたくなかった。 「(後継者が不在なら)私たちがやらない理由はなかった。むしろやりたいという気持ちが強かった」 舩坂さんのその思いが、大野さんの心を動かした。こうして有限会社帰雲商事(深山豆富店)と株式会社ヒダカラの事業譲渡の交渉が始まった。

事業承継の専門家が担う理由

岐阜県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者 坂井達英さん

岐阜県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者 坂井達英さん

契約に際し、第三者のアドバイスが必要だと感じた舩坂さんは、事業承継・引継ぎ支援センターに支援を求めた。 本件を担当した岐阜県同センター統括責任者の坂井達英さんは、 「物件や設備等をどの程度譲渡するのか、店舗は誰が運営するのかといった課題のほかに、 当人同士の話し合いでは言及されないリスクをどこまで精査できるかが重要」になったという。

例えば、先代の人脈で交わしていた口約束は、経営権が第三者に渡ると白紙に戻される可能性がある。 また、万が一譲渡後に事業継続ができなくなった場合、どういった対策が必要なのか、 そうした想定外の条項を契約書に盛り込むことが不可欠であるという。 このようにセンターを活用すると、中立的な立場で譲渡者・譲受者それぞれの意見を聞き、 専門的な知見であらゆる状況を精査、譲渡後に不都合が起きないよう双方が納得できる契約を締結することが可能になる。

苦境こそ声を挙げるべき

後日、ヒダカラ社員の古田智也さんが店舗運営に名乗りを上げた。 古田さんは約3か月間、大野さんから直接指導を受け、豆腐作りの腕を磨いた。 「若いから覚えが早く、安心して店を任せられると思った」と大野さん。 一方、事業を譲受したヒダカラの舩坂さんは、 「店舗があるおかげで白川村の方々との交流が深まった。今後は白川村の魅力をもっと発信したい。 やりたいことが多くて、ワクワクしている」

こうして2021年8月に事業譲渡契約が完了した。 このように地元企業の若者たちが事業を引き継ぎ、店舗を無事再開した深山豆富店。 今回、意外なことから事業承継が進んだのは、大野さんが廃店を自らSNSで公表したことにほかならない。 小規模あるいは中小企業経営者は、時には悩みを打ち明けることが大切。 何かしら声を上げれば、解決に向かう筋道を見つけることができるかもしれない。

株式会社ヒダカラ 深山豆富店 店舗責任者 古田智也さん

深山豆腐店の店主となった古田智也さん

深山豆富のおからを使ったクッキーなども販売している

深山豆富のおからを使ったクッキーなども販売している

大野さんから指導を受けている古田さん

大野さんから指導を受けている古田さん

岐阜県事業承継・引継ぎ支援センターによる事業承継例

岐阜県事業承継・引継ぎ支援センターによる事業承継例

株式会社ヒダカラ(深山豆富店)

株式会社ヒダカラ(深山豆富店)

  • 所在地:岐阜県大野郡白川村
  • 創業:2004(平成16)年
  • 従業員:4人
  • 事業内容:豆腐製造業
  • HP:https://miyamatofu.jp

事業承継フロー

    • 1
    • 深山豆富店店主の大野さんが
      SNSで廃店を公表
    • 2
    • 駆けつけたヒダカラ舩坂さんに
      事業譲渡の話を持ちかける
    • 3
    • 事業承継・引継ぎ支援センターの
      支援を受け、契約準備へ
    • 4
    • 店舗責任者に古田さんが内定
      豆腐製造を大野さんから学ぶ
    • 5
    • 有限会社帰雲商事と株式会社ヒダカラ
      事業譲渡契約が成立
    • 6
    • 株式会社ヒダカラが運営する
      深山豆富店が再スタート

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TEL. 03-5470-1595

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