〈事例18〉とんfe 麦多朗|第三者承継の事例紹介
豚汁の味を守り続けていく
前経営者と後継者の思いが一致
継続か廃業か。将来について悩んでいた飲食店の店主は、事業承継による運営継続の可能性を模索。後継者に名乗りを上げたのは、地元の若き経営者だった。
事業承継が難しかった理由
後継者不在の企業や店舗はこの先
どうすればいいのか
年齢的に体が辛くなる。だが、お客さまのことを思うと安易に閉業できない。 後継者は決まっておらず、この先どうすればいいのか。 日々、こうした悩みを抱えながら店舗を運営している経営者は少なくない。 そうした経営者に向けて、全国の事業承継・引継ぎ支援センターでは、後継者マッチング、 事業承継支援など事業承継に関するさまざまなアドバイスを無料で行っている。 事業の将来をどうするか。まずはセンターに悩みを打ち明けてみたい。
退職を決意し、豚汁の道へ
日本名城100選や日本の歴史公園100選にもなっており、春には桜、秋には紅葉の景観を楽しみに多くの観光客が訪れる盛岡城跡公園(岩手公園)。 そこから徒歩で10分ほど、江戸時代から続く歴史ある肴町のアーケードを抜けると、“東北唯一 とん汁専門店” と書かれた看板が目に飛び込んでくる。店の名前は「とんfe麦多朗」。全国を巡り、豚汁の味に魅せられた大村茂さんが、2019年に開店した店舗だ。
看板メニューの豚汁は、豚肉とタマネギ、豆腐と白味噌からなるシンプルなものだが、素材から出る甘みや旨みを生かし、まるでクリームシチューのような深く濃厚な味わいが特長である。 「営業マン時代に食べた豚汁が忘れられず、自分で試したがなかなかあの味にならない。 そこで店主に作り方を教えてもらえないか直談判した」
一年後、店主から許可が出ると同時に、34年間勤務した食品会社を55歳で退職。豚汁店で働きながら苦心の末に豚汁のレシピを習得し、 03年に大村さんの初店舗を仙台にオープンさせた。
盛岡で豚汁専門店を再び
仙台の出店は開業直後から行列ができるほど繁盛したが、2年後に大村さんは病を患い、常連のひとりに店舗を売り渡すことに。 ところが、直後家主の都合により、賃貸契約が解除され、その店は急遽閉店に追い込まれた。 「譲り渡したとはいえ、豚汁を作り続ける人がいなくなったのは本当に無念。以来、あの豚汁をもう一度作りたい。 そんな気持ちを常に持ち続けていた」閉店から13年が経ち、19年に奥様の実家である盛岡への移住をきっかけに、大村さんは再び開業を目指した。
「もりおか あじわい林檎ポークのほか、豆腐や味噌など豚汁に最適な食材が揃っている。 だからこそ盛岡で再起したい、そんな思いでいっぱいでした」
19年11月に開業すると、徐々に客が定着し、出だしは順調だった。 翌年、新型コロナウイルス感染症の影響はあったが、新メニュー開発や持ち帰り販売、ポスティングなどあらゆる策を講じ、新規顧客を開拓。 コロナ禍でもどうにか継続できる状態を維持した。だが、この時大村さんはすでに74歳。一日約3時間のタマネギの仕込みで、体が悲鳴を上げた。
そこで以前から頼りにしていたよろず支援拠点に相談すると、事業承継を勧められ、岩手県事業承継・引継ぎ支援センター (以下センター)を紹介された。 大村さんの悩みを聞いたセンターは、具体的な支援内容を検討し、急ぎ引継ぎ先を探した。
若き経営者に事業を譲渡
盛岡市内で小中高校生向け学習塾を経営し、飲食店運営を視野に入れ、 センターに譲受の相談をしていた合同会社We are the Best代表・舘石宗利さんは、 知人とのランチの際「とんfe麦多朗」を訪れた。 そこで豚汁を食べると一度でその味の虜になり、2日後には奥様と、翌週には家族全員で食べに行くほどのファンになった。
「こういう豚汁があったのか、と初めは衝撃を受けました。のちに店舗が後継者を探しているという話を知り、 事業を是非引き受けたいと思いました」
センターを通じてマッチングを行い、豚汁を守り続けたいという舘石さんの思いが大村さんに届き、22年年頭から事業承継に向けた交渉が始まった。 センターは事業譲渡における両者の諸条件を調整するとともに、資金調達に向けた事業計画策定支援と合わせ、 岩手県及び県内の金融機関が連携した事業承継支援スキーム「つぐべ岩手」を活用した与信対応検討の取次を行った。 そうした結果、本件は「つぐべ岩手」の成約第1号案件になった。
本案件を担当した同センターのサブマネージャー・新里圭さんは、「交渉開始から契約完了まで約4か月。 早期に実現できたのは、両者が契約に向けて歩み寄ってくれた結果」と話す。
事業承継を終えた大村さんは、「若い世代に店舗を継げたのは本当に良かった。 今やSNSで情報を発信し、新しいお客さんを次々に呼んでいる。私にはできなかったことですね」と語った。
一方、事業を譲受した舘石さんは、「塾を利用する子供に食事を提供できれば、親御さんの負担を少なからず軽減できる。 今後は学習塾と飲食業のコラボを積極的に進めていきたいです」体にいいもので誰もが食べられ、地産地消にも貢献する食事を提供する。
長年、豚汁にかけた大村さんの情熱を、今後は舘石さんが受け継いでいく。
岩手県事業承継・引継ぎ支援センターによる事業承継例
とんfe 麦多朗
- 所在地:岩手県盛岡市
- 創業:2019(令和元年)年
- 従業員:1人
- 事業内容:飲食店(豚汁店)
- HP:https://fe-snackbar.business.site/
事業承継フロー
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- 1
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将来の店舗運営を不安視していた
前経営者がよろず支援拠点に相談
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- 2
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事業承継・引継ぎ支援センターを
紹介され、同センターに相談
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- 3
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第三者承継の
後継者探しを開始
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- 4
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後継者人材バンクに登録していた
前経営者の塾経営者が事業譲受を希望
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- 5
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センターでマッチングの末
事業承継に向けた交渉を開始
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- 6
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事業承継支援スキーム「つぐべ岩手」活用
譲受者は事業承継資金を確保
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- 7
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事業譲渡契約が成立
合同会社 We are the Best による運営開始