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「事業承継・引継ぎ」 事例紹介

〈事例26〉雅商会|第三者承継の事例紹介

信念を未来へつなぐ
センターが支えた挑戦の軌跡

コロナ禍による業績低下と後継者不在に直面。
センターの支援を受け、事業承継の解決策を模索。 マッチングを経て若手譲受者と出会い、未来を託した。

地域の車社会に応える信頼

譲渡者 栫 雅哉 さん

譲渡者 栫 雅哉 さん

鹿児島県は、豊かな自然環境と広い地域性により、日常生活で車が不可欠な地域である。 こうした背景の中、栫さんは1987 年、28 歳の時に雅商会を設立。 高品質なエンジンオイルの卸業で事業をスタートさせた。 当初はエンジンオイルを通じて、自動車販売業者や整備工場を対象に、 それぞれの顧客のニーズに応じた商品提案を行うことで積極的な営業活動を展開。 こうした努力により、栫さんと地元業者との信頼関係が築かれ、 安定した受注の確保へとつながっていった。  

ところが、近年はハイブリッドカーや電気自動車の普及によりエンジンオイルの需要が減少し、 栫さんは将来への不安を感じるようになった。 その一方で、鹿児島特有の桜島からの火山灰が車体にダメージを与えることから、 自動車販売業者からボディや窓ガラスの手入れを求める声が寄せられていることに気づく。 栫さんはこうしたニーズに応えるべく、車のボディコーティングや窓ガラスの保護処理など新しい事業に着手。 顧客に柔軟に対応し、誠実にサービスを提供することで信頼をさらに深め、地域に根ざした経営基盤を強化していった。

視力低下とコロナ禍の影響

当時、60 歳を目前にしていた栫さんは、年齢を重ねるにつれ視力の衰えを感じるようになっていた。 ボディコーティングのような繊細な作業では、わずかなキズも見逃せず、 以前のように安定したサービスの提供が難しくなってきたことで、 顧客に対する責任の重さと不安が日々増していったという。

さらに、コロナ禍が追い打ちをかけた。それまで多くの在庫を抱えていた自動車販売業者も、 コロナ禍による新車供給の遅れで車が不足し、販売店から車が消える事態となった。 その結果、ボディコーティングの需要も一気に減少した。

【転機】未来を託す決意

鹿児島県事業承継・引継ぎ支援センター

鹿児島県事業承継・引継ぎ支援センター

こうした不安を抱え、栫さんは次第に事業承継を考えるようになった。 これまで築き上げてきた雅商会を次世代に引き継ぎ、 顧客からの信頼を守り続けたいという思いが強まっていた。

そこでまず従業員に声をかけ、後継者としての適任者を探したが、 経営に前向きではない従業員もおり、事業を引き継ぐには難しい状況だった。

こうした背景から、第三者への譲渡を検討し、 鹿児島県事業承継・引継ぎ支援センター(以下センター)に相談。 信頼できる後継者を見つけるための新たな一歩を踏み出すことを決意した。

独立の決意と支援依頼

譲受者 上園 文也 さん

譲受者 上園 文也 さん

自動車業界で働いていた上園さんは、家族や親しい保険業者に相談し、独立の可能性を探っていた。 コロナ禍の影響で業界の厳しい現実を経験したことも独立を決意した要因になった。 当初、自分で譲受先を探したがうまく進まず、最終的には金融機関の紹介で、センターの安田さんに相談した。

【支援】信頼でつなぐ事業承継

上園さんの依頼を受けたセンターの安田さんは、起業条件を丁寧に確認し、 上園さんが自動車整備の経験を持っていることを踏まえて、 譲渡を希望する県内の自動車整備関連事業者のリストを提示するなど、 柔軟なサポートを行った。 その結果、上園さんは栫さんの事業の魅力に惹かれ、譲受先として希望した。

その後、安田さんは栫さんに「譲受したい若者がいる」ことを伝え、 両者のトップ面談を実施し、事業承継の機会を支援した。

複数回の面談と実務指導を経て、栫さんは上園さんについて「業務への熱意と責任感が伝わってきた」と評価。 一方の上園さんも、栫さんを「話し上手で知識が豊富」と信頼し、多くのことを学べると感じたという。

安田さんは、契約プロセスを順調に進めるため、詳細な計画書の作成や契約条件の提示を調整し、 スムーズな進行を支援した。 さらに最終的な契約に向けては弁護士のリーガルチェックも実施し、 双方の不安を取り除くための対応を徹底した。 こうして複数回の見直しを経て、念入りな契約内容が整備され、事業承継が実現した。

鹿児島センター 若菜 正典 さん

鹿児島事業承継・引継ぎ支援センター 安田 誉浩 さん

安田さんに相談する上園さん

安田さんに相談する上園さん

支援で実現した独立開業

「ただお願いしただけ。センターの支援がなかったら事業承継できなかったと思う」(栫さん)と語り、 事業承継の手続きが円滑に行えたと感想を語った。 一方、上園さんも「安田さんが譲渡希望の事業者リストを迅速に提供してくれたことで、 独立への道筋が明確になり、嬉しかった」と述べた。

上園さんは、義弟と共同で株式会社雅商会を設立し、栫さんが築いてきた信頼を受け継ぐことにした。 今後は整備工場の増設や設備投資を積極的に進め、会社の基盤を強固にする計画を掲げており、 鹿児島県でトップの自動車整備会社を目標としている。 将来的に「栫さんから成長したねと言われるような会社にしたい」と述べた。

株式会社雅商会の整備工場

株式会社雅商会の整備工場

技術力の高い従業員

マメシバガレージとして運営している

成功のポイント

栫さんの屋号も引き継いでいる

栫さんの屋号も引き継いでいる

今回の事業承継が成功した要因は、売り手と買い手が互いの状況や希望をしっかり理解し合い、 信頼関係を築けた点にあると思います。栫さんは「顧客への信頼を守りたい」という思いが強く、 上園さんもその期待に応える姿勢で臨んだことが、承継成功の鍵となったのでしょう(安田さん)。

鹿児島県事業承継・引継ぎ支援センターの事業承継事例

鹿児島県事業承継・引継ぎ支援センターによる事業承継事例

雅商会

  • 旧所在地:鹿児島県鹿児島市岡之原町
  • 創 業:1987(昭和62)年
  • 事業内容:自動車整備業

事業承継フロー

    • 1
    • 栫さんが事業譲渡を
      センターに相談
    • 2
    • 上園さんは独立開業を希望
      金融機関の協力でセンターと面談
    • 3
    • エリアコーディネーターが
      両者をマッチング
    • 4
    • 複数回の面談を経て、
      両者が信頼関係を構築
    • 5
    • センターが契約条件の調整と
      リーガルチェック
    • 6
    • 事業承継完了
      継続的なフォローアップ

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